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三船のブログ

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『図書館の魔女(下)』最後の手紙の文法解説

『図書館の魔女(下)』pp.792-793の手紙をできる限り解説してみた。こちらは訳を見てから解読にとりかかれるのでキリヒト君より遥かに楽なのだが、思いの外大変だった上になお不明瞭な箇所がある。識者の御意見を請う。

以下に原文にマクロンを補ったものを記す。本書にある通り、ラテン語の古語法が用いられている。解釈に自信のない語を赤色にした。

Adtentior tuō passuī quī revertēre

Kalendīs tōtīs plicāns digitōs ad diem tuī adventūs

Apud archīvum turris altissimae ted opperibor.

Reditus sī tibi coactus nōn fātō nēve nātū siet,

Itinera nostra conjuncta tēte numquam perduxint,

――quīn tuum nōmen novum susurrētur.

[1行目]「あなたが帰る際に伴う足音にいっそう注意を払って」

adtentior : attentior の別形。attentior は attentus(attendō「気をつける」の完了分詞)の比較級女性単数主格

tuō : tuus(あなたの)の男性単数与格

passuī : passus(m, 歩み)の単数与格

quī : quō(関係詞 quī の男性単数奪格)の古形

revertēre : revertor(帰る)の直説法未来2人称単数

<文の解釈>

3行目までがひとつの文であり、その定動詞は3行目の opperibor であるから、1行目は分詞構文による副詞節。

quī の先行詞は passuī で、性・数は先行詞に一致し、格は関係詞節での役割に応じて決まる。

キリヒトは quī revertēre を「それと共に汝が帰る」と訳している。これは奪格支配の前置詞 cum「…と共に」の役割を関係詞 quī が兼ねるということだろうか。

[2行目]「あらゆる月宣言日に、あなたの到来する日を思って指で数えながら」

Kalendīs : Kalendae(f, pl, 月の第一日)の奪格

tōtīs : tōtus(すべての)の女性複数奪格

plicāns : plicō(折り曲げる)の現在分詞女性単数主格

digitōs : digitus(m, 指)の複数対格

ad : 対格支配の前置詞「…に至るまで」

diem : diēs(m, 日)の単数対格

tuī : tuus(あなたの)の男性単数属格

adventūs : adventus(m, 到来)の単数属格

<文の解釈>

2行目も副詞節。

Kalendīs tōtīs は時を表す奪格で「あらゆる月の第一日に」。ハルカゼ訳「月宣言日のめぐるたび」。この「月宣言日」という語はあまり広く使われてはいないようだが、風情があって好き。

tuī adventūs「あなたの到来」は diem を修飾するため属格となっていると考えた。

ふたりの関係を思えば「お前」と訳すのがふさわしいが、あえて教科書的に「あなた」と訳すのもマツリカ様がデレてるっぽく見えて良い。

[3行目]「最も高い塔の書庫にあなたを待とう」

apud : 対格支配の前置詞「…のところに」

archīvum : archīvum(n, 記録保管所)の単数対格

turris : turris(f, 塔)の単数属格

altissimae : altissimus(altus「高い」の最上級)の女性単数属格

ted : tē(あなたを)の古形

opperiborhttp://www.dicolatin.com/XY/LAK/0/OPPERIBOR/index.htm ←このページによると opperiar(opperior「待つ」の直説法未来1人称単数)の別形 

[4行目]「あなたの帰還が運命にも生まれにも強いられないのであれば」

reditus : m, 帰還 単数主格

sī : …ならば(sī 節で接続法、帰結節で直説法)

tibi : あなたにとって

coactus : cōgō(強いる)の完了分詞男性単数主格

nōn : …でない

fātō : fātus(m, 運命)の単数奪格

nēve : しかも…ない

nātū : nātus(m, 生まれ)の単数奪格

siet : sit(sum の接続法現在3人称単数)の古形

<文の解釈>

fātō と nātū は「…によって」を表す奪格。

[5行目]

itinera : iter(n, 道)の複数主格

nostra : noster(私たちの)の中性複数主格

conjuncta : conjungō(結びつく)の完了分詞中性複数主格

tēte : tē の強意形

numquam : 決して…ない

perduxint : perduxerint(perdūcō「導く」の直説法能動態未来完了3人称複数)の別形と思われる。

<文の解釈>

conjuncta は形容詞化して itinera を修飾している。

5行目は4行目の sī 節の帰結節であると同時に6行目の quīn 節の帰結節も兼ねている。

[6行目]

quīn : …ないならば(quīn 節で接続法、帰結節で直説法)

tuum : tuus の中性単数主格

nōmen : n, 名 単数主格

novum : novus(新しい)の中性単数主格

susurrētur : susurrō(ささやく)の接続法受動態現在3人称単数

<文の解釈>

5,6行目の直訳は「あなたの新しい名がささやかれないならば、私たちの結びついた道は決してあなたを導かない」となるが、自然に言い換えればこれは「私たちの結びついた道があなたを導くとき、あなたの新しい名がささやかれる」ということである。

 

2016/11/22 [1行目]の revertēre の項を修正