三船のブログ

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『図書館の魔女』シリーズ第一作に残された伏線

シリーズ第三作『図書館の魔女 霆(はたた)ける塔』の年内刊行予定が言い渡された。また直近五月には増補のある第一作下巻文庫版が発売予定とのこと。

さて本記事では上下巻として刊行された『図書館の魔女』シリーズ第一作中の伏線のうち、第一作中では回収されていないものをまとめてみる。私が確認した限りでは上巻中にのみ見つけられた。

 p.67

「私がお前の名前を呼ぶことはない」……この言葉がかわされた時、そこに居合わせたのはキリヒトと魔女とそして傍に立っていた司書――ハルカゼだけだった。この司書は今し方高い塔の魔女が暗やみの中に右手の指を使ってあらわして見せた言葉をずっとずっと後に思い出すことになる。

p.143

ミツクビはその名に三という数詞を含んでいることからも予想されることであるが、薬師の名前にも一人の人間を指すには不自然な部分がある――彼らの呼び名はいずれも複数形の語尾を持っている。

 p.172

指文字を織り交ぜた手話で文献学の議論に臨むマツリカと、それを側面から支援する立場に立たされるキリヒトには、これが後々大きな足かせとなり、とりわけキリヒトの労苦を幾倍かにすることになるだろう。ただ、その労苦は彼らに巨大な副産物を与えることにもなるだろう。もっともこれはまた後の話になる。 

 p.182

――ちがう、そんなんじゃないんだよ。

その珍しい慌てぶりにイラムの方が面食らっていた。そしてこれが、キリヒトが図書館の魔女に対して彼女は「女の子」だと思った二度目の瞬間だった。三度目はずっと後のことになる。 

 p.398

別に二人だけで北の沢に遊びに出るというこの日の約束は、ほどなくして果たされる約束だとマツリカはなんとなく思っていた。よもや数年を待たされることになろうとは、この時のマツリカには思い及ばぬことだった。 

 p.629

キリヒトは「先生」の様子を聞かれて「十年前ともなれば様子が違っているかもしれない」などと言っていた。若年のものならともかく、ある程度の高齢にあるものならば十年で「様子が違っ」たりするものだろうか。なにか不自然だ。なにか証言の間に微妙な齟齬がある。