三船のブログ

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上限の定義とちょっとした系

実数全体の集合ℝの部分集合Aに対して

U(A):={x∈ℝ|∀a∈A, a ≤ x}とし、

supA:=minU(A)と定める。supAをAの上限と呼ぶ。

ここで特にx∉U(A) ⇔ ∃a∈A, x<aであることに注意する。自然言語で言うと、「Aのどんな元aに対してもa ≤ x」の否定は「Aの元aで、x<aとなるものがある」だということ。

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『図書館の魔女(下)』最後の手紙の文法解説

『図書館の魔女(下)』pp.792-793の手紙をできる限り解説してみた。こちらは訳を見てから解読にとりかかれるのでキリヒト君より遥かに楽なのだが、思いの外大変だった上になお不明瞭な箇所がある。識者の御意見を請う。

以下に原文にマクロン(長音符号)を補ったものを記す。語義やマクロンの配置はLEXICON羅和辞典<改訂版>を参考にした。本書にある通り、ラテン語の古語法が用いられている(すなわち、ラテン語は我々からすれば「古」い言葉であるが、そういう意味ではなく、規範とされている古典ラテン語の時代から見ても、尚古い語法が使われているのである)。解釈に自信のない語を赤色にした。

Adtentior tuō passuī quī revertēre

Kalendīs tōtīs plicāns digitōs ad diem tuī adventūs

Apud archīvum turris altissimae ted opperibor.

Reditus sī tibi coactus nōn fātō nēve nātū siet,

Itinera nostra conjuncta tēte numquam perduxint,

――quīn tuum nōmen novum susurrētur.

 

[1行目]「あなたが帰る際に伴う足音にいっそう注意を払って」

adtentior : attentior の別形。attentior は attentus(attendō「気をつける」の完了分詞)の比較級女性単数主格

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『GIRL FRIENDS』フランス語版を読む 第8話(2)

フランス語版『GIRL FRIENDS』を入手した喜びのあまりこんな記事書きました。文法さらっとやったレベル(おそらく3級落ちるであろうレベル)の私が注目した台詞を挙げ、その下に原作で対応する位置の台詞を載せ、解説や所感を付しました。

実際の漫画の仏文はすべて大文字ですが、この記事では改めています。また原作の複数のふきだしにまたがる台詞を載せるにあたって、空白の幅等にはあまり明確な基準は設けておりません。

次の略語を用いることがあります。inf. :不定法 ind. :直説法 sub. :接続法

 

Je me suis retrouvée si près de toi… que… sans m'en rendre compte… je t'ai embrassée…

あっこの寝顔見てて…そしたら… つい…あっこにキス しちゃってたの…

>se retrouver は「(ついに)…になる」の意味でとるのがいいと思われます。

si … que + 結果節 : とても…なので…だ。si と que が挟んでいるのは près de toi なので「あっこがすごく近くにいたから…」となります。

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『GIRL FRIENDS』フランス語版を読む 第8話

大好きな漫画で言葉を学べるのは、ひとえに原作者はじめ関係者各位、そして文明の進歩のおかげであります。心よりお礼申し上げます。

文法さらっとやったレベル(おそらく3級落ちるであろうレベル)の私が注目した台詞を挙げ、その下に原作で対応する位置の台詞を載せ、解説や所感を付しました。

なぜ8話からかというと、Amazonでフランス語版探したら2巻が1500円ちょっとで、他の巻は3000円超えてたからです。

実際の漫画の仏文はすべて大文字ですが、この記事では改めています。また原作の複数のふきだしにまたがる台詞を載せるにあたって、空白の幅等にはあまり明確な基準は設けておりません。

次の略語を用いることがあります。inf. :不定法 ind. :直説法 sub. :接続法

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Je n'arrive pas à regarder Akko dans les yeux…

あっこの顔が まともに… 見れないよ~

>arriver à inf. : …できるようになる。「…できなくなる」は inf. の部分を否定形にする(J'arrive à ne pas regarder …)のではなく、arriver を否定形にするんですね~

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『図書館の魔女』シリーズ第一作に残された伏線

シリーズ第三作『図書館の魔女 霆(はたた)ける塔』の年内刊行予定が言い渡された。また直近五月には増補のある第一作下巻文庫版が発売予定とのこと。

さて本記事では上下巻として刊行された『図書館の魔女』シリーズ第一作中の伏線のうち、第一作中では回収されていないものをまとめてみる。私が確認した限りでは上巻中にのみ見つけられた。

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『図書館の魔女(上・下)』の感想

前に一度この本の感想を書いたものの、読み返してみると言いたいことを言いきれていなかったのでまた書く。大きなネタバレは書かないように配慮したが、未読者は読まない方が良いかもしれない。

 

2015年1月下旬、私は言語学の、入門というか軽めの本を読むべく、Amazonで「言語学」のキーワードで検索をかけた。すると、意外にも小説がこの検索にかかった。その本のあらすじにはこうあった。

 

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声をもたないうら若き少女だった―。

 

私はこのあらすじを見、著者が言語学者であることを知り、世界観が好みであること、言語をテーマにした話であること、そしてこの話は言語に対して生半可な扱いをしてはいないであろうことから本書の予約に至った。

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『図書館の魔女』における片仮名ルビ

『図書館の魔女』には片仮名のルビが多数登場する。英語なら比較的調べやすいが、フランス語やラテン語のうち英語圏に浸透していないものに関しては学修経験がないと調べるのが困難だ。そこで、十分な心得があるとは言いがたいが、私の方で調べづらいと思われるルビを解説してみる。ラテン語の意味やマクロンの有無はLEXICON羅和辞典<改訂版>を参考にしている。

<上巻>

表紙 これはルビではないが、羅語で dē sortiāriā bibliothēcae とある(この記事ではマクロンを補っている)。

dē(~について)はかかる名詞(この場合 sortiāria)を奪格にして従えるので、(LEXICONには掲載がないのだが)sortiāria(魔女)を女性名詞で最もメジャーな第一変化名詞と仮定すると、その奪格形 sortiāriā が従っていると考えられる。

dē は日本語の題「図書館の魔女」と対応しない語だが、ラテン語の書物には dē から始まる題が多い。

bibliothēcae は bibliothēca(図書館)の属格形。

p.35 御焼き(ドー)

英語の dough から。

p.44 書見台(ピュピトル)

仏語の pupitre から。仏語では u はウではなくユと発音する。語末の e は発音しないので、re を仮名に音写するとルとなる。

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