『図書館の魔女(上・下)』の感想
前に一度この本の感想を書いたものの、読み返してみると言いたいことを言いきれていなかったのでまた書く。大きなネタバレは書かないように配慮したが、未読者は読まない方が良いかもしれない。
2015年1月下旬、私は言語学の、入門というか軽めの本を読むべく、Amazonで「言語学」のキーワードで検索をかけた。すると、意外にも小説がこの検索にかかった。その本のあらすじにはこうあった。
鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声をもたないうら若き少女だった―。
私はこのあらすじを見、著者が言語学者であることを知り、世界観が好みであること、言語をテーマにした話であること、そしてこの話は言語に対して生半可な扱いをしてはいないであろうことから本書の予約に至った。
続きを読む『図書館の魔女』における片仮名ルビ
『図書館の魔女』には片仮名のルビが多数登場する。英語なら比較的調べやすいが、フランス語やラテン語のうち英語圏に浸透していないものに関しては学修経験がないと調べるのが困難だ。そこで、十分な心得があるとは言いがたいが、私の方で調べづらいと思われるルビを解説してみる。ラテン語の意味やマクロンの有無はLEXICON羅和辞典<改訂版>を参考にしている。
<上巻>
表紙 これはルビではないが、羅語で dē sortiāriā bibliothēcae とある(この記事ではマクロンを補っている)。
dē(~について)はかかる名詞(この場合 sortiāria)を奪格にして従えるので、(LEXICONには掲載がないのだが)sortiāria(魔女)を女性名詞で最もメジャーな第一変化名詞と仮定すると、その奪格形 sortiāriā が従っていると考えられる。
dē は日本語の題「図書館の魔女」と対応しない語だが、ラテン語の書物には dē から始まる題が多い。
bibliothēcae は bibliothēca(図書館)の属格形。
p.35 御焼き(ドー)
英語の dough から。
p.44 書見台(ピュピトル)
仏語の pupitre から。仏語では u はウではなくユと発音する。語末の e は発音しないので、re を仮名に音写するとルとなる。
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